金管(ブラス)アンサンブルは単なる演奏形態ではない。それはさまざまな形態へとフォーメーションするパフォーマンスである。
一方、ヴァーチャルは、さまざまな視聴者が、さまざまな空間から、別世界をフレームから覗き込んでいる。時には小さなスマホのスクリーンの中に吸い込まれていく。そして目だけではなく耳までも覆われる、いや、包み込まれる、といった方がしっくりくる。
金管楽器の芳醇な音色、煌びやかな音色、神秘的な音色、力強い音色。ホールが満たされ、世界が大きくなったように感じる。気づけばもうそこは演奏会場になっているだろう。現実ではない、仮想現実としてのヴァーチャルから、Virtue(名詞:善・徳・美徳)-Virtual(形容詞:事実上の・コンピューター上で)という英語の本来の意味へ還っていくのだ。
演奏会はファンファーレからはじまる。藤川大晃:「界・響-Fanfare-SAKAHI・YURA-」はファンファーレを神域と俗世に隔てる鳥居に見立て、日常生活から演奏会という特別な空間に入るための重要な役割を担う。栗原真葉:「AQUA」は禊(みそぎ)のように、私たちに水を想起させ、心が水で洗われるような作品。吉田優歌:「いき〜4本のトロンボーンのための〜」は、トロンボーン奏者4人が織りなすシアターピースである。そして北海道民謡・千住明:「Soran Bushi」によって、大地を震わせるような躍動した音楽で大団円を迎える。
力強い身体表現によるコンテンポラリーダンスや、美しい空間デザイン、劇的な映像とSENJU LAB Brassのコラボ作品をお楽しみいただきたい。
2021年5月24日
大関一成