余湖雄一
Quantization
(2017)
Quantizationは芸大作曲科4年生の時に作曲されました。
当時は作家としてアルゴリズムを用いた作曲に傾倒していた時期で、Common Lispというプログラミング言語によって自分の理想とする音響を探し求めました。
西洋音楽では伝統的に和声学や対位法といった音楽理論で、調性の中心を規定するところから作曲が始まりますが、この曲の中心となっているアルゴリズムでは「音と音の距離=音程」を基礎単位として、一定の規則に従って音を並べました。
それはたとえるなら、広大な日本庭園の真ん中で一定の規則で石を並べていくような、そんな和の感覚を持ちながら、音を探していたような気がします。
このようにして出来上がった音響は、はっきりとした調性を感じられるわけでもないものの、どこか秩序立ったような、不思議な聴覚体験をもたらします。
和の感覚を持ちながら作った音楽がまるで無機質でSFのような音を奏でるチグハグさが、逆に言えば、2017年当時の東京に住むデジタルネイティブ世代のリアルな作家感覚だったのかもしれません。