プロジェクトリーダー山本耕志からのメッセージ

本プロジェクトを運営している、東京藝術大学COI拠点について

「バーチャル芸大」は、東京藝術大学COI拠点が運営するプロジェクトです。COIは、Center Of Innovationの略称であり”イノベーションを継続的に創出する拠点を産学連携で構築する”ことを目的に、9年間、活動を行って参りました。COI活動は政府のプロジェクトであり、「国の競争力獲得」を目的として文部科学省、JSTのもと進めています。

日本の競争力は、企業の研究開発部門を基盤としてさまざまなイノベーションが生み出され、社会実装されることで具体化してきました。会計制度、企業価値評価などが変わる中で、企業は目先の実績が求められ、将来投資が出来なくなり、企業の研究所は姿を消しました。海外では、大学や政府の研究機関が重視され、ここに企業や投資が加わりイノベーションが具体化されています。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)、日本のソフトバンクなどが、その例となります。学生時代の素晴らしい発想が時代を変えるイノベーションにとって重要な起爆剤となっているのです。

東京藝術大学は技術、バイオなどの資産を保有していませんが、「発想力」を持つ人材を保有しています。アートの本質的な価値を理解し、人真似をしないで自己表現を生み出す人材が集まっていることがイノベーションを生み出す本質となり、ブルーオーシャンの領域を作り出すことに繋がると思います。COI活動では、産学連携でこの人材の発想を具体化しています。「クローン文化財」、「誰でもピアノ」など、異なる分野で、様々のイノベーションを生み、伊勢志摩サミットへの展示など、「国の競争力」創出活動に取り組んでいます。

バーチャル藝大が生まれた背景

コロナによって芸術を取り巻く環境は大きく変わりました。音楽では演奏会の開催が出来なくなり、美術では展示の場を失いました。生活者は感動を求めたくても感染防止の視点から抑制を行いました。芸術に関わる人々は発表の拠点を失うだけでなく、生活基盤にも大きなダメージを負うことになりました。感染に伴う生活変化として、仕事やコミュニケーションがオンラインされました。生活者は、食事、睡眠以外は、スマホの仮想空間で過ごすことになりました。

withコロナ、afterコロナの時代、東京藝大卒の演奏家、美術家と共に話し合い、藝術活動の継続の論点が明らかになるとともに、実現したい発想も頂戴しました。この発想を産学連携で実現すべく、企業の技術力も活用して取り組んだ成果が「バーチャル芸大」となります。

バーチャル藝大の価値

_オンラインの感動
デジタルコンテンツはクリックすれば多くのコンテンツが視聴可能です。見たいコンテンツを見れば次のコンテンツを見ます。デジタルコンテンツの価値は陳腐化する一方です。YOUTUBE、DVD、放送以上の感動を創造することから始まりました。演奏会の魅力は自分が見たい視点で見て、体験することであり、放送、DVDなどのコンテンツでは不十分でした。制作物とライブは異なることがわかりました。さらに、ライブで出来ないこと、演者が観客に味わってほしいこと、としてリアルなライブでは絶対にできないステージに上がって演奏を体験することでした。ステージ上でパフォーマーだけが味わえる景色と音。ステージのすべての場所で異なる価値を持つパラレルワードが展開されていて、これを伝えたいと思いました。


_アーティストへの経済基盤構築
ライブを行うのに、会場費用、収録費用、プロモーション費用が必要です。配信を行うとさらに費用が必要です。チケット売上から費用を控除し、残りが演者に渡ります。密を避け、観客同士の距離を取るため、入場人数が50%に制限された場合は、チケット売上が半分になります。また、配信を行っても、YOUTUBEなどで無料で視聴できてしまう場合もあり、ライブ事業そのものが赤字となるため、演者は発表の場を失ってしまいます。特にオーケストラ等大人数を抱える芸術活動は事業へのインパクトが大きく、芸術活動の経済基盤の見直しが必要になっています。NFT等新たな基盤もありますが、バーチャル藝大では、チケット収入以外の収益モデルの創造を目指しました。リアルな会場の仮想化を行い、演奏が始まる前に会場のスペースを歩き回り、演奏とは直接関係ない、間接的な楽しみを設けました。偶然の出会いとして、ライブグッズやサイン会などを発見し、チケット収入以外で演者に貢献できることを再現しました。リアルな会場で行われていたことが、コロナ禍で出来なくなっていたため、仮想空間内に再現してみるとともに、新たなコミュニケーションとして演者とオンラインコミュニケーションなどを行うことも取り組む計画です。

_演奏のノリ
演奏者にとって、「オンライン配信は観客の反応が伝わらない」いう声もありました。感動を測定するのは、感動の定義が人によって異なり定義が難しいのですが、COI活動を進める東京工業大学、広島大学の研究活動と連携して、演奏者、視聴者の皆様と感動を共有できる仕組みの構築にも取り組んでおります。

今後のバーチャル芸大

今はまだプロトタイプの活動ですが、コロナにより様々な芸術活動がダメージを受けているため、音楽のみならず美術など様々な領域で活動を行います。来年3月でCOI活動が終了します。「バーチャル藝大」の取り組みは、プロトタイプをベースとして大学発ベンチャーとして研究活動を継続できるよう進めていきます。

東京藝術大学COI拠点
拠点長
山本耕志