杉本 和寛

テクノロジーによる芸術の価値向上

教授/音楽学部長・大学院音楽研究科長 杉本和寛
教授/音楽学部長・大学院音楽研究科長
杉本 和寛

 現代社会では、藝大(生)にとって音楽や美術、そしてその表現活動の存在価値を常に考えることを要求されており、COIの成果はその端緒となっている。ゆえにCOIが展開してきたものに対しても学生には興味を持ってもらいたい。COIで取り組んでいる感動のモニタリングや感性が数値化される様子など、人間とAIのテクニカルな違いには大いに興味をそそられる。おそらく、感性には、分解できて検出できる部分とできない部分があり、後者が藝大の価値につながるのだろう。AIは、「人間とは何なんだろう」と考えさせるツールなのだと思えてくる。
 今、コロナ禍により、クラシック音楽だけでなくポップスなどでもインターネットコンサートのチケットが売れ、これが違和感なく感じられるようになった。そうした視聴者の中からほんの少しずつでも関心を持つ層が広がり、音楽と生活の境目がメルトし、そこにクラシック音楽や邦楽もあれば、禍転じて福となる一歩である。
 また、障がい者から学ぶという姿勢は藝大が以前から持っていたコンセプトの1つであるが、「だれでもピアノ」のように、COIはそこにテクノロジーを添えることで人間の感性に訴えることに成功した。これもCOIが、藝大にはこれまでなかった方向性に気づかせてくれる、確かな証左である。